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縦横無尽に語りつくしてもらいました!
――プロフェッショナル人材戦略拠点がどのような対話を行っているのか、実際に拠点を利用した愛知県東郷町で金属線材フォーミング加工を行う株式会社石川製作所の後継者 荒川 和哉 氏との対談をお届けします。
中川 宏 ―なかがわ ひろしー
プロフェッショナル人材戦略拠点
人材戦略マネージャー
(株)トヨタキルロスカモーター(インド)社長、中央精機(株)社長を経て、2020年より現職。中小企業経営者との対話を通じて「真の経営課題」の発見と「真に必要な人材像」の明確化を支援している。また、外部人材の有効活用を提唱し、中小企業が副業・兼業人材を受け入れる環境の推進も行っている。
荒川 和哉 ―あらかわ かずやー
株式会社石川製作所
専務取締役
愛知県東郷町に所在する、自動車産業向け金属線材の曲げ加工を行う製造業の後継者。㈱マキタでの設計業務の経験を経て、2018年当社へ入社。愛知県プロフェッショナル人材戦略拠点を利用して、副業人材の活用も行いながら、社内の改革を実行している。2023年より社長に就任予定。
中川 石川製作所さんで次のチャレンジっていうと何がありますか?
荒川 99%の自動車業界のお仕事があることへの感謝はもちろん忘れずにですが、これからはやはり自社で仕事を作っていかなくてはいけないということを考えています。自社でニーズを取りに行くことを始めました。
今まで、営業もいないまま、自動的に図面が来て、その図面のものを作るという仕事で75年成り立ってきましたが、これからは同じようにはいかないと思わなければいけません。実際に自動車業界向けの新規は、部品の共通化によって減少してきています。共通化に採用された部品の発注が大量に来る、というのが現状の業界構造です。
2022年4月は機械要素技術展へ初めて出展し、30社と接点を持ちました。自動車以外の業界から治具の相談を受けるようなこともありました。数は少なくとも、金属線材の曲げ加工品はまだ探していけば需要はあるということは凄く感じ、今後2022年10月には信用金庫のビジネスフェア、11月にはメッセナゴヤへの出展を予定しています。費用は掛かりますが、最低でも5年間は継続して、年に3,4回はニーズをとるために出展を続けようと思っています。展示会でいろいろ知り合ったつながりで、ニーズを見つけて行きたいですね。
私がもともとマキタへ入社したのも、最終製品を作る会社に入りたかったということがありました。当社に入ってからもこの考えは続いていて、展示会や展示会をきっかけに入ることになったあいち産業振興機構が運営を支援しているあいち経営塾へも顔を出してニーズを探っています。
そして最終製品の企画を行う会社さんと縁ができました。そこで次の展示会は自社製品を出してみたいという話をして、デザイナーさん2名と繋いでもらいました。弊社は約30名の従業員がいますが、その内約20人が女性で、女性目線でのアイデアも得られるように、そこから5名のチームを作って、線材で付加価値の高い製品はできないかと検討を始めました。
もうひとつは、WEBでの集客も着手しています。現状の弊社のホームページだと、なかなかそこが難しいところですが、あいち産業振興機構のWEB再生塾に10月から弊社社員と2名で参加しています。今年中にWEBサイトもガラッと変えて、問い合わせフォームからの注文を受け付けて行きたいと思っています。
中川 クリアになっていていいですね。やはり石川製作所さんの最大のチャレンジは、自動車業界の一本足打法を、どうやって二本足に変えていくかというところですね。それぞれ5割、5割ぐらいの2本脚が理想なのかもしれないけれど、でもね、なかなかそうは行かない。この太い大黒柱を大切にしながら、もう一つの柱、そしてまた次の柱を立てて行くという思考だと思うんですよね。
荒川 その通りだと思います。本当に大きな軸で、今の自動車業界の仕事がいただけているので、チャレンジができる。今までお世話になってきて、自動車業界の変化に対しては力になっていかなくてはいけないと思います。EV化が進むにつれて、当社の得意先も新しいことへ取り組んで行くと思うので、そこに弊社が力になれることはしっかり取り組んで行きたい。自動車業界の変化を静観している訳ではなく、当社も新たに試作機を2台導入して、できる限りの協力をしていきたいと考えています。
中川 これまでにも荒川さんと同じぐらいの若手経営者とお話をしてきているけれども、中には新規ビジネスで手っ取り早く儲けたいっていう方もいますよね。だけれども、そういう先でちょっと現場を見せてもらうと、まだまだやらなくてはいけないことがいっぱいある。
やはり大黒柱があって、自分の強みだとかノウハウを持ったところから、その周辺に梁を張っていくのが正しいと思っています。結局、この大黒柱の方が、例えばEV化でこれまでの半分の仕事量になってしまうなんて言われるけれど、半分減ったところでまだ、半分は残る訳です。残りの半分の争奪戦で同業者とものすごい競争が始まる。その時に勝ち残る会社っていうのは、自分のものづくりとか製品に競争力がある会社。だから、外に柱を作る、磨くっていうこと同時に自分の今やっていることを磨くことが大事。
この周りにも石川製作所さんの競争相手はたくさんいるんじゃないですかね。あそこのバネ屋さんと自分と比べたときに、どこが自分の強みなんだと考える。相手を蹴落とすわけではなくとも、自分が生き残るためには、ライバルよりもいい仕事をしなければいけないとういう発想も必要だよね。
荒川 結構、新しいことをやろうとすると、今の仕事があってこそできるのに、新しいことばかりに時間を使っちゃって、今の仕事を見失う時があるんですよね。でも今の仕事を大事にしないといけないっていうのは、言い聞かせていないと、どうしても走ってしまう時がありますので気をつけなくてはと思っています。
中川 今納めている仕事も、例えば、「実はこうやってもっと軽くなります」「安くなります」「リードタイムが削減できます」といった提案ができるようなものが一つでも二つでもあると、それが競争力になっていきますよね。
荒川 弊社では現状、量産で加工できる線径範囲が、0.7~3.0mmぐらいなんですね。競合他社や協力先でも、それより広い加工範囲を持つ先はあります。それでも弊社が得意先から選ばれているのは、品質を維持する仕組みがあるからだと考えています。線材の加工範囲を広げるのは、弊社の現状の設備では対応が難しいので、まずは、既存の設備を用いてどのように付加価値を出していくかが悩みですね。
外部のデザイナーさんも登用して、今の機械で付加価値を付けていく方法を検討し始めました。その上で、将来的には、加工範囲を広げる設備投資も検討していかなくてはいけません。展示会に出て、4.0~5.0mmぐらいの結構太めの試作依頼も入ってきていますので、対応していきたいですね。
……といったことは考えていますが、前提として、自社で金型を作れたり、修理できたりという体制を維持できていることこそ大きな強みだと思っていますので、これは守っていきたいと考えています。
中川 得意先から試作のオーダーは来ていますか。
荒川 今は少なくなってしまっていますね。
中川 それはどうしてでしょうか。試作は得意先の試作品が減っているのか、それとも競合他社に行ってしまっているのでしょうか。
荒川 そもそも線バネ自体の試作品需要が全体として減ってきていると思います。今まで、新規のニーズを取ってこなかったとこともあり、そこからスタートしなくてはいけないですね。ニーズをとれないと、設備投資も根拠のない選択になってしまいます。
中川 展示会などでニーズを拾って、試作の話になる。試作こそがビジネスの入り口ですからね。絶対に試作のないところにビジネスが生まれるわけはないですから。
荒川 そうですね。弊社は今まで、部品の設計をしてきているわけではなくて、要望があった図面の製品を、製造するっていう会社だったので、自社での提案や設計に課題を認識しています。スピード感をもってお客さんに対応できないところが弱みとして感じています。
中川 やっぱり、やらなきゃいけないんだよ。
荒川 いろいろやらなきゃいけないことがあるんですけど、まずはニーズを取ること。優先順位をつけて、今年は展示会だと考えています。
中川 マキタさんで、試作を発注する側として経験を積まれたから、感覚があるかもしれないけれど、試作を発注する側の人が相手をどれだけ信頼できるか、ここに発注したいと思う「肝」は何だと思う。
荒川 私が発注者だったらまずスピードが絶対。あと図面を見せて、「あ、これだったらできる」と即答してもらえるところ。値段はそこそこでいいかな。あとは、ちゃんとした寸法でできているという品質保証も一緒にしてくれると、信頼して使っていけるかなと思います。
中川 もちろんね、技術力もスピードも大事。でも試作を受ける会社はだいたい似たような力を持っている。差が出るのがね、「フレキシビリティ。変化への対応力」。試作品なんて、しょっちゅう変わるじゃないですか。発注する側でも新しいアイデアが出て、「ここちょっとこう変えよう」とか「この部分こういう風にやってみたい」「これ失敗しちゃった」とかいろいろ変わる。そうやって困ったときにすぐ応えてくれるかどうかが大事。困ったときには助けてもらった、反応してくれた、っていう体験が信頼につながりますよね。
荒川 「ちょっと修正したい」とかですね。
中川 「ちょっと修正すると……まあ一週間かかるんだけど、まあ、やりますね。」なんて言っていたらダメで。「わかりました!これができるかどうかわかんないけど、まずはやってみます。」っていう会社に取られてしまう。
荒川 そうですね。心強いです。そういう対応してもらえると。
中川 で、やってみてできないこともあるかもしれないが、受けた限りは何とかできるように取り組む。
荒川 そうですね。それがきっかけで、弊社も焦って技術力が高まってくるっていうのがあると思います。無理やりできるかできるか分からないのものを持ってくると、今まで自社の加工の限界にあまり挑戦してこなかった所を、どこまでだったらできるか、とかそういう検討につながっていきますね。できた図面を作っているだけでは、限界を作っているわけじゃないので。その辺は展示会で「じゃあどこまでできますか」って聞かれてもなかなか答えに困る。今実際、製造している人もあまりやったことがないから、例えば、「この形状であれば奥行きを考えてどこまでできるか」のようなことがパッと出てこない。そういうところは分かるといいですし、その力を付けていかないといけない。
中川 今、仕事を外注している割合はどれぐらいですか。
荒川 出荷量にすると3割ぐらいですね。
中川 そう多くはないね。
荒川 品番にするともう少し多い割合になります。出荷が多いものをできるだけ内製しています。
中川 仕入先にはそのまま一式を頼んでいますか。それとも一次加工して、二次加工を頼んでいますか。
荒川 弊社の協力先も似た機械を持っているので、一部を除いて任せていますね。品質のチェックだけ弊社の品質管理を通して問題ないかっていうのを確認するのとあとは梱包ですね。
中川 メッキとか焼入れはどうしていますか。
荒川 メッキは全部外注しています。熱処理までは弊社で行っています。表面処理だけが外注で、あとは全部、製造・熱処理・検査全部行っています。
中川 いやいや、なかなか簡単ではない世界だね。ちょっとスッキリしたいでしょ?
荒川 そうですね(笑)。
自動車産業の協力先として石川製作所は絶対残さないといけない。これは絶対です。その中でやはり新しい取組をしていこうと思うと、当社の協力先も含めて過去からの動きにくさも多少はあります。でも、それによってチャレンジしていく環境を失ってはいけませんので、このような状況を打破するためにもやはり独自ブランドの商品化などに取り組んでいくことは必要だと思います。
系列ができあがっている中で、変わっていくということの考え方は捉え方が難しいものですが、今の仕事をないがしろにせず、新しいことを行うというチャレンジはしていきたいですね。
―― 今回、愛知県プロフェッショナル人材戦略拠点を通して副業人材を2名活用されました。
荒川 そうですね、1名はプロジェクト的に関わってもらい当社の方向性をスライドに書き起こしてもらうお仕事を依頼しました。もう1名は、新規販路開拓を目指して、見込顧客のリストアップのお仕事から関係が始まり、打ち合わせを重ねる中で事実上壁打ち相談相手のような関わり方に変わっていきました。今も定期的に打合せを行っていて、当社の取組の推進力になっています。新しい風を入れていくということが少なからずいい方向に作用してると感じています。
今まで外部の方と一緒に新しいことにチャレンジするという機会がなく、自分のできる範囲に留まっていました。ですが副業人材活用をきっかけに動いたことで、いろいろな人との繋がりを持つことができ、展示会にもつながりましたし、展示会からはデザイナーさんにも繋がりました。やはりとにかく自分が動いて、外から情報をもらってやっていかないといけない。この一つのきっかけが、プロフェショナル人材戦略拠点の副業人材活用でした。
中川 今、WEB改善のセミナーを受講されているとのことでしたが、そこでご自身の知見を高めた後に、実際の制作で副業人材を活用する方法もありますね。副業人材へシャープに課題を投げられますね。
荒川 そうですね、またWEBに留まらず、社内のDXはすごく進めたいと感じています。これは自社でどこまでできるかまだちょっとわからない状態なので、ここで知見がある副業人材の方に入っていただいくのもありだと感じていますね。特にDXに関しては、こういう課題があって、こういう風に変えて行こうというアイデアは社内からは出にくいものですからね。
中川 DXに向けた現状調査ですね。自社のDXへの対応度を調べてもらうのはいい考えですね。DXにはステップがあるし、目先に課題があるにもかかわらず先だけを見ちゃって、大きなことをやりたいっていう考えが先行してコケてしまうことも多いですからね。
荒川 デジタル化全般が当社の来期の重要テーマです。まだ人がやらなくてもいいような、改善できることがたくさんありますので、チャレンジしていきたいですね。
中川 ぜひ今後もプロフェッショナル人材戦略拠点を活用してください。
――
ありがとうございました。
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