プロ人の面談ってどんなイメージ?
次世代を担う若手経営者は今何を考えている?
・・・SDGs カーボンニュートラル DX 副業・・・
縦横無尽に語りつくしてもらいました!
――プロフェッショナル人材戦略拠点がどのような対話を行っているのか、実際に拠点を利用した愛知県東郷町で金属線材フォーミング加工を行う株式会社石川製作所の後継者 荒川 和哉 氏との対談をお届けします。
中川 宏 ―なかがわ ひろしー
プロフェッショナル人材戦略拠点
人材戦略マネージャー
(株)トヨタキルロスカモーター(インド)社長、中央精機(株)社長を経て、2020年より現職。中小企業経営者との対話を通じて「真の経営課題」の発見と「真に必要な人材像」の明確化を支援している。また、外部人材の有効活用を提唱し、中小企業が副業・兼業人材を受け入れる環境の推進も行っている。
荒川 和哉 ―あらかわ かずやー
株式会社石川製作所
専務取締役
愛知県東郷町に所在する、自動車産業向け金属線材の曲げ加工を行う製造業の後継者。㈱マキタでの設計業務の経験を経て、2018年当社へ入社。愛知県プロフェッショナル人材戦略拠点を利用して、副業人材の活用も行いながら、社内の改革を実行している。2023年より社長に就任予定。
中川 ――最近の得意先からの引合いはどのような様子ですか。
荒川 そうですね、今年に入ってから増産要求があるとの情報もあって、去年の年末から在庫を用意してきていたんですけど。もう9月になってしまいましたね。今月からやっとコロナ前の1、2割減ぐらいの水準の受注になってきました。もう先月までは2、3割減ぐらいの受注水準がずっと続いてきているので、今は簡単ではない状況ですね。
弊社の売上の99%を1社に依存していて、また間接的に弊社の仕事の9割が自動車産業向けとなっています。どうしても自動車の生産量で売上が左右されてされてしまうという状況です。
中川 この夏ごろ仕事が戻ってきて、8割ぐらいのところまで何とか来たっていう感じですね。
荒川 そうですね。一瞬そう来たんですけど、8~9割どまりです。ただ、そこからもじわじわと増減を繰り返していて……。コロナ禍になった当初にぐっと落ちたときは、雇用調整助成金を使うなどで対応できたんですけど。今の戻りゆく状態では、従業員を休業させることも簡単ではなく、今の方が状況としては難しさがありますね。
中川 自動車業界も今年の初めぐらいから、「挽回に入るぞっ」ということで内示が高い時がありましたよね。それでも、内示の通りにはいかず、実際の注文はだいぶ下がっていることがある。そこをきっと、皆さんご苦労されているんじゃないかなと思います。
荒川 弊社の直近決算は黒字だったんですけど。在庫が多くなってしまいました。やはり内示があると、準備をするんですよね。キャッシュフローの観点ではあまりよろしくないですね。
中川 注文が来るぞと、出すぞ、ということでどうしても構えますもんね。
荒川 構えますね。
中川 準備しないで一気に引合いが来て、ついて行けないと問題になっちゃうから、やっぱり完成品在庫も持つし、材料の手配もする。
荒川 そうです。
中川 それに人員の手配もするし。でも実際、ふた開けたら全然引合いがなくて、「どうなってるの?」と言うと、得意先も「いや、うちも引合いがあれば出すんだけど」ってなるんだよね。
荒川 これはどうしても業界の構造ですもんね。
中川 でも、もうぼちぼち引合いがくるんじゃないです?
荒川 そうですね。9月からは土曜日の出荷もあり、回復してきている実感はあります。ですが半導体不足なんかはしばらく解消しないという話もありますし、まだ様子を見ながら、受け身になってしまっているところはありますね。
中川 最近どこもカーボンニュートラルへの注力が話題になっていて、これからますます対応していかなきゃいけないという要請があるわけですが、得意先からそのような要請って何か来ていますか。
荒川 そうですね、普段のガソリン、燃料、電気の使用量なんかは、去年から報告するようになりましたね。CO2の排出量はどれぐらいだったかを調べているんですね。社内の経理担当者がまとめて連絡をしています。
中川 今これぐらいのCO2排出があると把握しておいて、何年後かにはこれを下げるような計画を作りなさいという流れになりそうですね。
荒川 そこまでの計画は今のところは無いですね。ただ、弊社としてもやはりできることはやっていかなきゃいけないと思っています。小さい規模の会社がどこまで貢献できるかっていう考えもあるんですけど、できる範囲での貢献は大事だと思います。
結局、アメリカと中国の排出割合が大きいので、日本がどれだけ頑張ったところで、その影響力はなかなか大きくはならないとも言われますが、それでも、いろいろな企業が取り組んでいけば、変化があると思います。弊社もSDGsを謳っていて、できる限りの取り組みをしていかないと時代遅れになってしまいますし、お客様にも何もやってない会社とは思われたくはありませんし、時代に合わせて積極的にやっていかなきゃいけないと思っています。
中川 カーボンニュートラルやSDGsの取り組みをしている会社としていない会社が競合した時、値段などに差がなく、印象で差がつくのなら、やはり取り組みしてる方が選ばれていくようにだんだんとなっていくんですよね。
そういう世界っていうことを理解しないといけないし、採用でも同様です。新しく社会人になる、会社を選ぶ若い人たちが、やっぱりSDGsもしっかり取り組んでいるところに行こうかなとなるわけですよね。学校でもそういう教育をされているじゃないですか。
荒川 確かに、学生さんの方がSDGsについてはよく知っていますよね。小学生でも知っているぐらい。幼児向けの教育番組でもSDGsをテーマにした歌が流れていますし、大人の方が知らないぐらいになってしまってる状態ですね。取り組んでいかないとどんどん遅れてきますよね。
中川 やれと言われたからやるのではなく、もうちょっとポジティブに捉えて、自社をよりいい所にしてやるぞ、という感覚があるといいですね。
荒川 去年からなんですけど、障害者の採用を始めました。弊社では、重要な業務として製品の選別作業があります。表面処理工程で、変形や他の会社の製品も混ざってしまうことがあって、選別が必要となるんです――。
中川 難しいんだよね。
荒川 そうなんです。表面処理屋さんにはその保証を簡単にはしてもらえないので、こちらで保証をする必要があるんです。仕事の関係で縁があった就労支援を行う施設の方に依頼してみて、引き受けてもらうことになりました。ちょうどそこに、弊社の採用のチラシを見ていて「この会社に行きたい」と言ってくれた方がいて、体験に来てもらったんです。そしたら働きぶりはとても真面目で、しっかりチェックしてくれるんです。
ただ、一度、その方も体調を崩してしまったことがありました。やはりプレッシャーもあったようです。それでも当社で働きたいと言っていただいたので、それからは、社内の掃除も交えながら、仕事を依頼しています。それもしっかり行ってくれて、本当にみんな助かっています。
チェックのお仕事もだんだんと早くなってきて、精度よく仕事をしてもらえるようになり、いかに得意なところを見つけて任せることが重要かを実感しました。今仕事の区分けも担当部署で改めて考えていて、もともと4時間だった勤務時間も、本人から6時間に増やしたいと言ってくれるようになりました。
また、地域の仕事を作って行こうと思えば作っていけると思うようになり、それにはしっかりした仕事の区分とSDGsや社会への貢献をしたいという考えを大事にしていかなくてはいけないと思います。地域にとって、なくてはならない会社というものを目指していきたいと思いますね。
中川 いいですね。
荒川 今回ひとり採用してみて、これは推進していくべきことだと実感しました。他の従業員からの評判も良く、すごく真面目に取り組んでくれているという話が続々あがってきます。こういう風土はこれから特に大事にしていきたいです。
中川 そういう思いや志は、大切にされると良いと思いますよ。私も経験があります。不思議な事で、確かに体にハンディキャップを持たれている方は健常者のように働けないけれども、会社のリーダーが「やるぞ」と決めて職場に受け入れてもらうと、職場が変わっていくんですよね。障害をお持ちの方に働いてもらおうと思うと、「職場のここをもうちょっとよくしなきゃいけない」とか「ここの段差がある所はちょっと」とか「明るさ、電気がどうか」とかね。受け入れるために変えて行かなくてはいけないところが見えてくるんですよね。
今まで当たり前だったことも変えて行くと思うんです。そうすると従来からいる人にとっても絶対プラスなんだよね。「あー、職場環境が良くなったね。」とか「働きやすくなったね。」ってなっていくんだよね。こういう面でのプラス効果も期待して盛り上げてあげなければね。
荒川 そうですね。そういう目線も持ちながらやっていきたいと思っています。これまで見つけられないようなことも見つけてくれて、また見つけさせてもくれるので、本当にすごいです。
中川 石川製作所さんの企業規模だと、障害者雇用数の基準って決まりがないですよね。(規模的に法定障害者雇用率順守義務対象外)もうちょっと大きくなると一定割合の雇用が必要になるけれども、将来、石川製作所さんがどんどん、大きくなって基準のことを考えなきゃいけなくなった時のことをイメージすると。自社のプロフェッショナルの仕事に、ハンディキャップをお持ちの方を、5人、10人と雇用するのはなかなか難しい時があると思います。
そうすると、無理して仕事を作ってしまいがちになるけれども、どうしても繁閑の波の大きい仕事だとか、物理的に難しい物流倉庫のハンドリングとか、やはりなかなか簡単にはできないですよね。自社で適当な仕事が作りにくい企業には、自社で採用して、農業法人に出向させるような仕組みもできてきています。
荒川 農業はこれから絶対必要というか、まあ量も従事者も減ってしまっている状況だと思いますが、私は農業がこれから面白そうだなと思っています。いきなり社内に取り入れる訳ではないですが、調べていくと、金属の線材って結構農業で使われているんです。そこを切り口にした農業の展示会出展など、拡がる余地を感じています。
農業法人が障害者の方を採用して運営している記事も見て、そういう分野で事業はこれからもどんどん拡がっていくと思います。食はやはり必要ですしね。
中川 製品を見させてもらったんですけど。これはどこまで行っても誤品混入との戦いでしょうね。やはりバネ屋さんもネジ屋さんも、小物を扱う所ならではの難しさですよね。スペシャリストの手で、最後の検査工程で悪いものをはじいて、良品だけを客先に送ること。これは現状やらなきゃいけないんだと思う。でもそれをいつまでもスペシャリストに頼ってたらこの先はなかなか難しいですよね。とにかく品質追求することで不良を減らすことですね。品質は工程で作り込もうということで、不良品が出た時にはすぐ見つけて工程にフィードバックするわけですけれども、この点で最近はまた進んできていて、他の優良企業で、ものすごい力入れているのが「画像処理」。自動化して、製品が流れた時にカメラで画像処理して、AIで診断して、不良をはじく。これはやっぱりやれるようになっていかないとね。検査工程のスペシャリストがいつまでも社内にいてくれるとは分からないからね。
荒川 そうですね。これから採用はますます難しくなってくると思うので、人ですべきことは人でやりながらも、今の技術でできることはちゃんと区分していかなくてはいけない。お金はかかる話ですけれどDXですね。やはり改革していかなきゃいけないと思います。これは口先だけでは絶対動かせないので、会社でこの年はやるって決めて全社的に取り組んでいかないと、いつまでも後回しになってしまう。特に今、仕事自体は成り立ってはいるので、どうしてもそういう目線がないと進められないですよね。
今、弊社のDXの一歩としてすね。100万個ぐらい月に出ている製品があって、去年、自動選別機を導入しました。カメラを四つ使って、ホースクリップの内経、表面処理の裏表の状態、交差部の隙間を4台のカメラで、不良をどんどんはじいていく機械を導入しました。2000万円ぐらいの投資となりました。数が多いのは費用対効果として見込めるので良いのですが、少ないものや、絡みやすいものでパーツフィーダーにいれられない製品での対応が今後課題ですね。
中川 いいじゃないですか。
石川製作所の製品 ホースクリップ・クリップ(βピン、Rピン等)・特殊線ばね
荒川 そうですね。人に頼るだけではいけないという認識は本当に大事だと思います。もっと取り組んでいかなきゃいけないですね。
中川 課題が見えてさえいれば、半分道は進んだようなものと私は思ってます。半分道を来たけれど、残りの半分どうするかという時に、自前だけではなかなかやり切れないことが多い。だからといって、専門業者に出すと値段は高くなってしまうものですよね。それで結局、業者使ってもあれこれと全部コントロールしていかなくてはいけないですし、自社が知見を持ってないとなかなか業者の方をうまく活用できないですよね。そういう時に、外部の副業プロ人材を上手に使う。ここはこういう人、この時期はこういう人。というように。これができるかできないかで問題解決力が変わる。将来の会社の発展、成長が変わる。そういう面では、荒川さんは第一歩を踏み出されたと思うんですけどね。いいなぁ、と思います。
荒川 やはり課題は多くて、私もこの会社に来てやっと5年目に入ったとこで、実際内部の事がすべて詳しく分かるかというと、「はい」と言い切れないところがあるんですけど、まずは新しい情報を得て、社内に落とし込んでいくっていう役割をして行かないと変わっていかないなあと思っています。線材加工の勉強と同時並行でやって行かなくてはいけないですね。
ーーー後編へ続くーーー
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